快適な旅を支えるトラベルギアの草分け「イーグルクリーク」

快適な旅を支えるトラベルギアの草分け「イーグルクリーク」

旅人を満足させる理想の製品を作りたいという熱意のもとに洗練された旅のツールを作り続けているブランド
「彼らの歴史はぼくらよりちょっと古く、創業当時のA&Fでは、財布やデイパックなどを扱っていました」

トラベルギアというカテゴリーを確立し、長く王座に君臨するイーグルクリーク(eagle creek)について、A&Fの赤津孝夫会長はこう話しはじめた。

「それまで、財布といえば皮革製という印象でしたが、そこに当時の最新素材・コーデュラナイロンでつくった“トランプワレット"が登場し、すぐさま輸入するとそれが大ヒットしたんです。キャンバスのような力強さと斬新な色遣い、いわゆるヘビーデューティな魅力にあふれながら、多くの機能を併せもつ。新しい感覚が光る商品でした」

イーグルクリークはより冒険的な旅でその真価を発揮する。右上は「旅と新しき世界との出会い」をテーマにした旧ロゴ。

イーグルクリークを創業したのは、山とスキーを愛するスティーブ・ベーカーとノナ夫妻。ふたりは1972年、クライミングのメッカとして知られる南カリフォルニアのアイレルワルドにマウンテニアリングショップ「Mountain People」をオープン。登山用具を販売し、クライミング講習をする傍ら、オリジナルパックを製造していた。その製品が評判を呼び、1975年、店を閉め、イーグルクリークを立ち上げた。

「はじめてイーグルクリークに触れたのは、NSGA(ナショナル・スポーティング・グッズ・アソシエーション)の会場でした」

1970年代後半のORショー開催以前、アウトドアを含む狩猟や釣り、アスレチックなどの野外スポーツをまとめて扱っていたのがNSGAだった。

「イーグルクリークの新しさに驚いたことを鮮明に覚えているので、スティーブにも会っているはずなんだけど、そこは覚えていないんだよね」

ブランド設立後、サンディエゴ・ソラノビーチの広大な倉庫にて製作を開始。自らミシンを踏む創業者のスティーブ。

そう笑いながら、赤津会長は話を続ける。

「いまは一端の釣り師として、アラスカなんかにしょっちゅう出かけるスティーブだけど、当時はフライをまともに振れないくらいのビギナーだったんだよ」

年齢が近く、意気投合したふたりは、出会ってほどなく、大型トラウトが潜むグリーンリバーへと出かける。会長の手ほどきを受けたスティーブさんはみごとトロフィーサイズを手にし、それ以来、フリークの道を突き進んでいるという―――。

赤津会長のお話には、こうして名だたるブランドの創業者とフィールドを共にする話が、ごくさりげなく登場する。グレゴリーの創業者であり、盟友であるウェイン・グレゴリーとはいくつもの山や渓を渡りあるき、ペンドルトンを創始したモートファミリーの伝統行事であるという、父の日の鱒釣りに招待されたという話。ORの創業者ロングレックとも、川旅の途中で出会っているという。

毛鉤を結び、火を起こす。

そんな所作のひとつに、野外で過ごしてきた時間の厚み、その一端が表れる。そうして同じ空気を吸うなかで、互いの度量が手に取るように伝わってゆく。英語はからきしだと笑う赤津会長が、国境を越えてビジネスを、友情を育んでいる秘密は、このあたりにあるのだろう。

忙しい仕事の合間に、自社製品を持って世界をめぐる副社長のリッキー・セレジュンガー。生産者自らが旅をし、使いこむことで、製品はより使いやすく、洗練されてゆく。

イーグルクリークが独自の存在感を放っているのは、「トラベルギア」というカテゴリーを切り拓いたことにある。

「質実剛健なデイパックをつくっていたのに、あるときからへんてこなバッグ――いまではすっかり浸透している3wayバッグなんですが、当時は目新しかった―――を作り始めたんですよ」

背負い、肩にかけ、手持ちでも使える3wayバッグ、それに加えて大きなホイールを搭載したキャリーバッグなどが続々と登場してゆく。

「当時、トラベルギアという概念はなかったんです。彼らはそこに、山で培った技術を用いた、シンプルで頑丈、そのうえで多機能なバッグをつくり、アクティブな自然に触れる旅、いわばアドベンチャートラベルにフィットする製品を生みだした。それが瞬く間に、世界中で受け入れられていったんです」

「The Choice of Adventures——冒険者たちが選ぶトラベルギア」という意味でタグなどに使われていた1984年に使われたイラストと、当時のラインアップである「OLD SCHOOL」。まだ、クライミングギア色が強いデザイン。

現在のラインナップを見ると、3wayバッグ、ダッフルバッグ、キャリーバッグがあり、それぞれ容量のバリエーションがそろっている。そして、それらの内部を整理する、インナーパックの充実には目を見張るものがある。

「これが1996年発売以降最大のヒット作となった“Pack-It System"です。キャリーバッグやバックパック内でしわにならないよう荷物を小分けに収納しながら、スペースを最大限活用できます」

旅先や目的に合わせてバッグを選び、インナーパックを組み合わせることで、あらゆる旅に対応する。そうして、荷物が整理整頓された状態を保つことで、ストレスなく旅を続けることができる。

(左上)欲しい機能をぎゅっとまとめた旅の供「ウェイファインダーバックパック 30ℓ」。(右上)過酷な長い旅に最適な、80ℓのホイールモデル「エクスパンス フラッドベッド 29」。(左下)パック内でのウェアや道具類の整理に最適な、アドベンチャートラベルの新定番「パックイットスペクター キューブセット」。(右下)軽量で耐水性、耐久性に優れ、なおかつ摑みやすいダッフルバッグ。「カーゴハウラーダッフル 45ℓ」。

「細部まですごく考えられて、便利でシステマチックな仕組みを作った―――この点において、イーグルクリークは画期的だと思います」

出張はもちろん、そして自身の旅でも欠かすことがないという相棒について、会長はこう話す。そして、数年前にブランドは買収されたものの、ブランディングが守られている点でも希有な存在だと目を細める。

「良いものがないなら自分たちでつくろう。そう考えて、自ら縫うことからはじまったブランドです。そうした創始者の心意気が、時世を経ても受け継がれているのは、本当に嬉しいことですよね」

【文=麻生弘毅 写真=エイアンドエフ】

*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。

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