アウトドアグルメというコンセプトで貫かれた心地よい統一感と機能美「ジーエスアイ アウトドアーズ」

アウトドアグルメというコンセプトで貫かれた心地よい統一感と機能美「ジーエスアイ アウトドアーズ」

機能とデザイン性を両立させた、アウトドアをより楽しくする調理器具ブランド
「ジーエスアイ アウトドアーズ(GSI OUTDOORS 以下、GSI)」はイアン・スコットとダン・スコットっていうふたりの兄弟が起ち上げたブランドなんですよ。彼らに会ったのはアメリカのアウトドア用品の展示会で、たぶん1997年ころだったと思うんですよね」

A&Fが取り扱う海外ブランドの多くは、赤津孝夫会長がこうした展示会に出かけて見つけ出したものだ。

「今やGSIはアメリカでいちばんのアウトドアキッチンウェアブランドですが、当時は誰も知らない小さな小さな会社でした。なにしろ、まだ自分たちでオリジナル製品を作っていませんでしたからね」

優れたデザインや心地よいスタッキング性、そして抜群の機能性で多くのファンを惹きつけているGSIだが、それらがオリジナル商品として生み出されるのはずっと後の話だ。では赤津会長は初期のGSIに何を見出したのだろうか?

「それはね、彼らの製品が新鮮だったんです」


左)GSIのイメージ写真には、カトラリーをぶら下げてクライミングする様子が描かれる。「GSIとともにアウトドアを楽しもう!」という力強いメッセージだ 右)そして広告に登場する、エスプレッソメーカーとデミタスカップ。赤津会長の話を聞いて、なぜこんな地味なアイテムがキービジュアルになっているのかの謎が解けた。

今もそのときのワクワク感を覚えていますよと、会長は続ける。

「GSIは最初、イタリアから直火式のエスプレッソメーカーと、メキシコからホーローのデミタスカップを輸入してたんですよ。そのころの僕らもキャンプでコーヒーは飲んでました。でもそれはドリップだったりパーコレーターだったり。とくにA&Fでは『ミロ』っていうアメリカ製のパーコレーターを輸入してましたから、焚き火のそばで、粗挽き豆をパーコレーターに入れてアメリカンコーヒーを飲む、っていうことを楽しんでたわけです。
ところがGSIが提案してきたのはエスプレッソなんですよ。これには驚きました。キャンプで、こんなにオシャレで洗練された時間を楽しんでるのかと。僕らがなじんでいたのは伝統的なアメリカンスタイルのキャンプでしたが、GSIはヨーロッパの雰囲気を持ち込んできた。というのも、スコット兄弟はカナダの出身なんです。それを聞いて腑に落ちました。カナダはフランス文化の影響を強く受けてる国ですからね。そういった話をしながら、これはいいな、新しいなと思って心が踊りましたね」

驚くべきことに、最初は単なるイタリア製エスプレッソメーカーの輸入代理店としてのお付き合いだったのだ。ところが、その後GSIが急成長を遂げる。

「今、スコット兄弟はふたりとも60代です。けれど、いまだだにアイスホッケーを楽しんで、マウンテンバイキングに行くとなると50km以上を嬉々として漕いでくる。ものすごくエネルギッシュなんですよ。とにかくアウトドアが大好きで、コーヒーが好きで、ワインが好きで、みんなで集まって楽しく食事をするのが大好き。そうしたスコット兄弟の人柄が、そのまま製品につながっていきましたね」

輸入業だったGSIだが、2000年ころにはオリジナルのカトラリーやポットといったキャンプクッキングウェアの製造をスタート。やがて軽く、見た目にも美しいオリジナルのクッカーやコーヒーメーカー、ワイングラスや食器などを精力的に開発し始める。


軽く、機能的な製品を生み出しているGSIだが、オーセンティックなホーロー製テーブルウェアの製造も続けている。理由はシンプル。彼らはホーローの食器もまた大好きなのだ。

「ひとつはね、出会ったころはカリフォルニアのサンディエゴにオフィスを構えてたんですが、ワシントン州の片田舎に移転したんですよ。古いスーパーマーケットを買い取ってね。アメリカのスーパーマーケットなんて、大きさで言ったらとんでもないですよ。そこを企画開発と品質検査の拠点にしたんです。従業員はたぶん50人前後ですが、周りには豊かな自然があって、アウトドア好きな人たちが集まってるわけですからね。毎日が製品開発の最前線ですよ。アイデアは次々に湧いてくるでしょうね」

創業者自らが先頭に立ってアウトドアを楽しみ、自分たちの好きなものを追いかける。その熱意は自ずと製品に移り、多くのユーザーの心を捉えた。そうして気がつけば、アメリカ国内のアウトドア系小売店で、GSIを扱っていない店舗はないといわれるほど人気のブランドに成長したのだ。

こうしたGSI人気の秘密を、赤津会長はこう読み解いている。

「何よりもGSIは分かりやすいんですよ。ブランドのコンセプトは『アウトドアグルメ』。アウトドアだから適当なものを食ってればいいっていう切り捨てじゃないです。せっかくの時間だから食も楽しもうっていう、非常に陽気な姿勢ですね。まずはこれが製品の真ん中を貫いている。だからどの製品を見ても位置づけが明快。すべては『アウトドアグルメ』のためにあるわけです」

そして、もうひとつが肝心だと言う。

「製品名が分かりやすい。アウトドアグルメを実現するためには、いろんな手法がありますよね。そうした状況に合わせた特徴を与えているんです」

一例を挙げると、軽さを追求した湯沸かし系クッカーには「ハルライト」のシリーズ名が、調理を意識して焦げ付き防止のテフロン加工を施したクッカーには「ピナクル」のシリーズ名が与えられる。

多くの製品にはコンセプトを表すシリーズ名がつけられている。左上)バガブーキャンパー 右上)ピナクルデュアリスト 左下)グレイシャーステンレスフラスコ 右下)ハルライトミニマリスト
バガブー=軽さと調理のしやすさを両立。内側はDuPont社製2層ノンスティックコーティング「Teflon Classic」、外側は高温ペイント処理したアルミ製。
ピナクル=バックパッキングに最適のアルミ製クックウェア。内側はDuPont社製3層ノンスティックコーティング「Teflon Radiance」、外側はアルマイト加工したアルミ製。
ハルライト=アルマイト加工したアルミ製。不要なものを省く発想で、あえてノンスティック加工を施さない軽さ重視のミニマム仕様。
グレイシャー=ステンレスの美しさを活かした製品群。

「見た目は同じようなクッカーでも、製品特徴によってシリーズ化しています。だから、目当ての製品が自分の求めるものなのかどうかは、製品名を見ればわかります」

そして、いたずらに流行に乗らないのもGSIの流儀だ。

「軽くするだけならチタンを使えばいいんでしょうけど、彼らはチタンは使いません。熱伝導がよすぎて焦げ付きやすいんだそうです。おいしい食事と引き替えにするのが数グラムの軽量化だなんて、本質から外れているっていうんです」


左はハルライトボイラー、右はピナクルデュアリストのポット。サイズは同じだが、ハルライトはお湯をわかすことに主眼をおき、ピナクルは調理を考慮してノンスティック加工が施されている。使い方の違いはフタの形状にも現れており、ハルライトは熱をムダにしないよう密閉度を上げているが、ピナクルは湯切りをし、お湯を注ぐ口がついている。内径は同じなので、GSIのネスティング・ボウル+マグがふたつ、ぴったりと収まる。

そうしたことよりも、と会長は続ける。

「食器のサイズをきちんと計算して作れば、美しくスタッキングできる。そしたら小さなスペースに効率よく収めることができますよね。2010年ころでしたが、GSIは『n-Formシステム』を発表しました。これは世界で最初のスタッキング性を重視した組み合わせ食器です。サイズをちょっと調整することは、味にはまったく影響しない。けれど使い勝手は格段に向上しますよ。第一、ものが収まるべきところに収まるのは、使っていて気持ちがいいじゃないですか」


「n-Formシステム」はアウトドアアクティビティでのパッキング効率を最大限に追求するために生み出された。今や一般的となった食器と食器の間にフォームを入れてしっかりフィットさせながらスタッキング性を上げる手法は、GSIから始まったものだ。n-Formシステムでは基本的に1)断熱材を巻いたマグ 2)湯切りができ飲み口のついたフタ 3)全体を収めるボウル から成っており、これに食器洗いのシンクとして使用できる防水コーティング済みのスタッフサックが付属することもある。

GSIのラインナップを見ていると不思議だったのだ。なぜ、こんなにも透明度の高いフルートグラスが用意され、なぜワイングラスに白ワイン用と赤ワイン用があるのか。異様とも思えるコーヒー器具の種類の多さや、完璧に計算しつくされたスタッキングのバリエーション。こうしたすべての出発点が、スコット兄弟のアウトドアを楽しむ姿勢にある。

「本当に自分たちの好きなものを追求してる。だから彼らの製品はブレないし、今でも最初のときと同じ新鮮味とワクワク感を与えてくれる。世界中で愛される理由は、まさにそこにあるんだと思いますね」

(文・写真=林 拓郎 写真=A&F)

*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。

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