失敗を恐れず、本気で遊ぶ。A&Fと同じ精神を持つ「ターグ」の原点とは

失敗を恐れず、本気で遊ぶ。A&Fと同じ精神を持つ「ターグ」の原点とは

必要なものを、情熱を持った人が作り、求める人たちのもとへ届ける。当たり前の理念を、オリジナルなスタイルで実現するブランド

これまで聞いてきたように、A&Fで取り扱う商品は原則として会長である赤津孝夫さんが、そのブランドの創業者や開発者と出会い、情熱や理念をじっくり聞いてから扱いを始めてきた。

「そうでないと、やっぱりお客さんに自信を持ってすすめることはできないですからね。で、その中でもここは愉快だった。やろうとしてることもおもしろそうだし、実際にブランドを動かしている人物がおもしろかった。バックグラウンドも信用できる。こんなふうに本気で遊ぶブランドこそ、うちが扱うべきだと思いましたね」

それがターグ(TERG)だ。

「ターグはね、ヘリノックス(Helinox)のバッグ部門なんです。正式なブランド名もTERG by Helinoxといいます」

会長は思い出し笑いをしながら話を続ける。

「うちでヘリノックスを扱い始めてしばらくした頃、ヘリノックスの社長のヤンさんが紹介したい人がいるっていって連れてきたのが、デザイナーのテホンさんだったんですよ。身体のあちこちにタトゥーが入ってて、着ているものもオシャレ。見た目にもアーティストだなっていう感じでした。
テホンさんは韓国のグラフィックデザイナー。ヴィンテージアウトドアギアのフリークで、何度も日本に遊びに来てて日本のアウトドア文化にも詳しい。で、何よりもバックパックが好きだと。グレゴリーやらデイナデザインやらの古いものもいっぱいコレクションしてるっていうんですよ。
ヤンさんもビジネスの面でとにかく旅行が多い。だから使いやすくてかっこいいバックパックがほしいとずっと思ってたんだそうです。そんな時に、テホンさんに会ったと。これからは彼と一緒にヘリノックスでバックパックを作っていくんだ、っていう話だったんですね」


左/韓国にあるヘリノックスのヘッドストア 右/ストア内にはヘリノックスの製品とともにターグのバックパックが並ぶ。自転車やスケートボードが一緒にディスプレイされるなど、そのプロダクトコンセプトがストリートにあることが見て取れる

会長は、堪えきれないといわんばかりに笑いだした。

「いや、失礼(笑)。 でもね、ヤンさんとテホンさんが会った時の話が、ほんとに可笑しかった。
っていうのが、ヤンさんが韓国でたまたまミステリーランチ(MYSTERY RANCH)のデイナ・グリーソンとメシ食ってる時に、テホンさんはそのレストランでウェイターのバイトをしてたっていうんですよ。
テホンさんにしてみたら、目の前に自分の大好きな製品を作ってきた、憧れのデイナがいるわけですよね。びっくりして思わず話しかけたけど最初、デイナは挨拶する程度だったんだそうです。けど、テホンさんがデイナの作ってきたものにあまりに詳しい。あのバックパックのここの部分はどうしてこうなってるんだとか、この時の素材はどうやって手に入れたんだとか、聞いてくることが完全にプロ目線だっていうんですよ。それでデイナも、よく知ってるね〜っていうんで楽しくなっちゃって、ものすごく盛り上がったんだそうです。
それを見ていたヤンさんは、これだ!と思って、テホンさんとじっくり話をしたら、これがものすごいセンスと知識量だとわかった。すぐにヘリノックスに連れてきてターグを起ち上げたんですよ」

A&Fが長年付き合ってきたデイナがキーパーソンとなり、日本のアウトドアカルチャーにも明るい青年がプロダクトを形にする機会を得た。

「こんな出会いでブランドが起ち上がる。しかも情熱を持ってものづくりに取り組んでいる人たちが、偶然居合わせた一瞬を誰もが見逃さなかった。まるでアウトドア黎明期の70年代の西海岸みたいですよね。素晴らしいストーリーじゃないですか」

そう言って、会長は再び楽しそうに笑うのだ。

「ターグには『デイパック』という名前の製品があります。名前の通り、非常にシンプルなデイパックです。けれどこのサイズ感やシルエットを守りながら、内部にはマルチリンクシステムっていう小物入れを自由に組み合わせることのできるしくみを備えているんです。使ってみても、困ることが何もない。ベーシックだけど完成度が高く、革新的。これはホントによくできてるな〜って感心しました」


Daypack
デイリーユースでの使い勝手を求めた、シンプルなシルエットが特徴。内部には必要に応じてさまざまなオーガナイザー(別売り)を組み合わせることができる、独自のマルチリンクシステムを採用。使い勝手を考慮したアシンメトリーなジッパーや、パックを降ろさずに荷物の取り出しができるウェイビングベルトなど、機能的なギミックを各所に配している。容量:23ℓ 重量:約890g サイズ:32×20×48㎝ 付属品:マルチリンクシステム #1ポケット 本体素材:1000D コーデュラナイロン ボトム素材:レザー

マルチリンクシステムでは、目的に応じてバッグ内のオーガナイザーポケットを脱着・交換可能。ポケットは上の5種類がラインナップしている。
#1/カラー:モノフィラブラック サイズ:23×3×28㎝ 容量:1.9L
#2 15インチラップトップ用/サイズ:25.5×2×30.5㎝
#3 13インチラップトップ用/サイズ:25.5×1×30.5㎝
#4/カラー:モノフィラブラック サイズ:23×3×28㎝ 容量:1.9L
#5/カラー:モノフィラブラック サイズ:20×3×14㎝ 容量:1.1L

ターグの製品に見られる、ストリートカジュアルのセンス、バックパックの基本をはずさない堅実な作り、各所に配置された心躍るギミック、そして持つ喜びを満たす質感の高さ。こうしたものを身につけるには長い時間がかかることを、赤津会長はよく知っている。

「ヤンさんのもとに、テホンさんのようなスタッフがどんどん集まってきてるんですよ。TERGっていうのは "Trial and Error Research Group" の略なんです。日本語で言ったら、試行錯誤実戦部隊、みたいなニュアンスですよね。面白そうなこと、楽しそうなこと、新しいことはとにかくやってみる。たくさんトライして、たくさん失敗して、その中から光るものをきちんと形にする。そういうものづくりの姿勢は、若い人たちを惹きつけますからね。
だからといって、奇をてらったことをするんじゃない。基本をしっかりおさえた堅実さの中に、自分たちなりの形を作り出していく。本気で遊ぶっていうのはA&Fの基本精神。それはやっぱり、こういうことだなと思いましたね」

必要なものを、情熱を持った人が作り、求める人たちのもとへ届ける。ターグはそうした当たり前の理念を、オリジナルなスタイルで実現するブランドなのだ。

「だからその魅力も、じわっと伝わります。分かる人には分かる。伝わる人にはちゃんと伝わる。そうしてゆっくり広がっていくことを、僕も楽しみにしてるんです」

(文=林 拓郎)

*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。

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