2014.11.21

走作楽天 ~Digonale des, Fous(愚か者の対角線)– le Grand Raid Reunion編~後篇

渡邊 千春

"Cilaosのドロップバッグを出てPiton des Naigesに向かうところ。Piton des Naigesのピークは雲に隠れています"

【走作楽天 ~Digonale des, Fous(愚か者の対角線)– le Grand Raid Reunion編~後篇】

チャプター3 ~Hung on~

 前半オーバーペースで入ったため、さらに、冷たい雨が続くことを読み切れなかったこともあり、2つある最初のドロップバッグステーションのCilaosまでの長い九十九折の下りで膝や大腿四頭筋にかなりのダメージが出てきました。寒さは内臓にもボディーブローのようなダメージがあり、Cilaosでは気分がすぐれず補給もままなりませんでした。ここからレースは残り100㎞弱ありますが、止めるという選択肢を捨ててただただ粘り(Hung on)、前進すると気持ちを切り替えました。Cilaosからコース最高到達地点のPiton de Naiges近くのピークまでは永遠に続くかと思われる1200mの一気の急登です。立木が少なく直射日光に当たっていたので意識も怪しくなりました。8合目ぐらいにある泉で何度も冷たい水で頭を冷やし、ようやく頂上に到達。山頂から見たCilaosの街は周囲を険しい山に囲まれて息をのむような景色。あえて言えばマチュピチュのようでした。ここからも身体が元気ならシュガーレイのフットワークで駆け下りるガレた下りですが、着地の度に膝や大腿四頭筋に痛みを感じながらの難行苦行の下りとなりました。しかし、Reunionの島の山によく使われているPitonとは雪という意味だとか、この島では高い山でも雪は降らないとか、日本では雪が降っても山に登るのかとか、雪があって滑るのに何を履いて山に登るのか等々地元ランナーとの他愛もない会話がとても助けになりました。フランス語を話す彼らと複雑な会話は出来ませんが、選手によっては自分の聖地のようなところを教えてくれ、大きな岩に登って「ここで深呼吸しろ!」、灼熱の太陽を遮ってくれ木陰を作ってくれている大木を前に「この木に感謝しろ!」と彼らなりの山の楽しみ方を教えてくれました。それは山を信仰の対象にしている日本人に通じるものがあると感じました。“愚か者の対角線”を進めば山や峠を越える度に、気候の変化や火山の影響で植生や景観が大きく変化します。人を寄せ付けないような荒々しい尾根、2000mを超す山頂から見える標高差が1500mもあろうかという深い谷、山頂がテーブルのように平らな単独峰を回り込むようにトラバースする道。東北の山を思い出しました。飯豊や今年縦走した大朝日は豪雪地帯で、夏でも雪渓が残り高山植物が咲き乱れています。太平洋側の安達太良山には氷河で削れたカールやクレーターのような噴火口があって、、、、。そうか、今度愚か者の南東北横断をしよう!

"石畳の道。が取りにくく走りにくいのですが、更にきつい傾斜が追い討ちをかけるところもあります"

 2日目の午後になり、本格的に気温が上がってくると大腿四頭筋が動き出しました。膝の痛さは経験したことのない膝裏の痛みに変わっていましたが、下りなど足の着地を丁寧にしてペースアップできるようになりました。Maidoという最後の2000m峰を超えたころには日がとっぷり暮れました。夜は、眠さが増し集中力が落ちるので、特に足元が悪いこのレースでは要注意です。とにかくスピード感がなくなると眠くなる習性がある私なので、脚を使い切ることに躊躇せず思いっきり走れるだけ走ることにしました。Maidoを超えフィニッシュ地点のある北の海岸地帯へ入ると夜間の山中でも生暖い風が吹いていました。明け方近く、流石に我慢できないほど眠くなり、Halte laという2つ目の荷物を預けるポイントで仮眠を取ろうと決めたのですが、下りで脚を相当動かしたため滝のような汗をかいていたのと、深夜早朝にも関わらずランナーにはうるさいほどの声援が飛ぶので、寝るのは不可能だと判断し、Sans Souci(憂いなしという意味だとランナーに教えてもらいました。)、Halte laという久しぶりの街中のエイドをあまり休まずに走り抜けました。この区間、75位前後まで一旦順位を落としましたが、Sans Souci のエイドでは60位ぐらいまで順位を上げました。

"フィニッシュ地点付近のロードへのプリント"

チャプター4 ~Welcome to GRR~

 Sans Souciからフィニッシュまでの約40㎞はアップダウンの強度は弱まるものの、ランナーの運と度胸が試される区間です。ステージが平地に移り、山道に比べコースが自明ではなくなったことに輪をかけて主催者がちょっと意地悪なコース取りをし、かつマーキングもかなり間引いたような感じになりました。例えば、河原から50mぐらい上にある舗装道路への登りは、一旦登って道に近づいたと思えば練り物のナルトのようにぐるぐる円を小さくしながら中心の方へルートをたどります。2晩寝ずに走ったあとのぼーっとした頭で「これってトレイルラン?」と何度も自問しながら前進しました。道がそのように切ってあるのも不思議でした。マーキングが見えず不安になってちょっと引き返すと後から来る地元のランナーに進め進めと後ろから叫ばれることの繰り返しでした。一本道でルートは明瞭にわかるものの、灼熱の太陽に焼かれる石畳の道も難敵でした。道が平らであっても石が不規則に置いてあるのでリズムが取りにくいのと、時にありえないほどの傾斜が現れます。あっという間にハイドレーションの水が少なくなりました。この区間は、「これがReunionのGrand Raidだ!度胸で勝負し、運も味方にしないとフィニッシュできないよ!!」と言われているようでした。ただ、突き放されるような感じは全くありません。とにかくランナー、ボランティア、サポーターが温かいからです。街に入ると私設エイドも充実。レース後半はコーラではなく微炭酸のサイダーが飲みたくなる私は、エイドステーションで出されるコーラには手を出せず、三ツ矢サイダーが飲みたいとばかり心の中で繰り返していました。フランス領だから三ツ矢サイダーは無いにしても、オランジーナが飲みたいと思った矢先の私設エイドになんとあるじゃないですか、オランジーナ。コップ5杯を一気飲み。エイドのお兄ちゃんに「大変そうだな。何かほかに要らないか?」と言われて、「オランジーナ」と言うとお兄ちゃんのツボにはまったのか2人で大笑い。そしてさらにコップ3杯オランジーナ。最終的に私は56位でフィニッシュしたようです。36時間半、飽きることも精神的に切れることもなく、本当に充実したレースでした。終わりが来てさびしいと思ったウルトラトレイルのレースは初めてです。フィニッシュ地点で現地のMCの方にインタビューを受けましたが、最初の一言が「いい笑顔でフィニッシュしました。」と。容姿や見てくれを褒めてもらうことは皆無な私ですが、私のレース中に笑っている表情は印象に残るようで、それを他のランナーがブログで書いてくれたり、雑誌の取材を受けた時に「なぜいつも笑顔なの?」と質問されたこともあります。笑っている理由を何故と聞かれても答えようはなかったですが、、。今年のUTMFのオフィシャルDVDの表紙には、夕暮れ時に石割山の山頂から富士山のシルエットを見て表情を緩めている私の写真を採用して頂きました。私の笑顔は、レユニオンにも通用するのか????

チャプター5 ~ワーク・ライフ・バランス、新たな発見~

 「走作楽天」第四話 ワーク・ライフ・バランスって???に書いたことではありますが、私は趣味であるトレイルランと仕事に多くの共通点があると信じています。今回も気づいたことがあります。約100㎞を残して膝や大腿四頭筋の痛みとの戦いを始め、痛くても前進するということを繰り返しながら、顧客との交渉事が難しければ難しいほど先に進めるために条件を譲歩するとか、そのために時間をかけて社内を調整する等精神的、肉体的な苦痛を伴うこともしなければならないという状況が必ず起きることにとても似ているなと。私の仕事では、重要なことになれば社内調整に時間と手間がかかり、海外にいる上司を捕まえて、承認してもらうために今回の36時間ぐらいかけるのは珍しくありません。このような仕事をしながら、私は有名なロッキーの試合の後の言葉を思い出し自分を奮い立たせます。その言葉とは、「勝つための鍵は、パンチを相手に強く打ち込むことではなく、相手からどれだけ強いパンチを打ち込まれながらどれだけ前進できるかだ」というものです(以下、原文。下線は筆者によるもの)。これからは、前半はシュガーレイ、後半はロッキーになったつもりで今まで以上に好きになったウルトラトレイルを走ります!私には、止めるという選択肢はありません!!

“Let me tell you something you already know. The world ain't all sunshine and rainbows. It's a very mean and nasty place and I don't care how tough you are it will beat you to your knees and keep you there permanently if you let it. You, me, or nobody is gonna hit as hard as life. But it ain't about how hard ya hit. It's about how hard you can get hit and keep moving forward. How much you can take and keep moving forward. That's how winning is done!

レポーター紹介
 渡邊 千春
渡邊 千春

外資系企業で働きながらも、UTMBなど海外レースをはじめ数多くのトレイルレース、イベントで活躍中のビジネスマンランナー。親子でトレイルレースへの参加やアルプス山行などトレイルを楽しむ。