『2度目のハセツネ』
2016.12.09 髙村貴子

『2度目のハセツネ』

『2度目のハセツネ』

2016年10月9日。自分にとっての2度目のハセツネである。
昨年初出場で3位になったレース。うれしかった半面、後半の失速で悔しさが残ったレースでもあり、今年最大の目標レースでもあった。

10月9日  ハセツネ当日
いつもとあまり変わらない朝5時半に起床し、入念に荷物の確認と準備をした。その後、当日のエネルギーとなる朝食をゆっくりと取った。武蔵五日市駅にある受付会場には余裕を持って9時過ぎには到着した。現地でマッサージを受け、足首、ひざ、腕、ふくらはぎ、腰にテーピングを貼ってもらう。不安のあった補給に関して、アドバイスを知人からもらったり、北原先生にほぐしてもらって、芥田さんにテープ(足首、ひざ、腕、ふくらはぎ、腰)を貼ってもらって、齊藤さんにジェルのアドバイスをもらう。ジェルを準備した後、ペツルのヘッドライトの設定をしてもらって、なんだかんだですべての準備が終わったのは11時半で少し焦った。

スタート前は久しぶりに緊張した。

スカイランニングのユースのメンバーや北海道の友人に会い、少し緊張がほぐれた感じがした。しかし、スタートしても足ががくがくしているのがわかるくらい緊張していた。スタート後、最初は他の女子選手が先に出たから抜かさなきゃと思ってすぐに下りに入る前に抜かした。抜かしたところまでは良かったが、登りに入ると思いのほか足が重い事に気づくが、『いや、しっかりやるだけの事はやったし回復しているはず』と自分に言い聞かせ、進むことにした。今回は事前に試走をしていたからなんとなくコースを覚えていたけど、去年渋滞したところは知らないうちに通過していてほっとした。でも、レースが始まり、心拍数があがっても緊張は完全にはほぐれてなかったみたい。去年は走れた登りもつらくて歩いてしまうし、後ろを見たら女子の選手がいるしでほんとに焦っていた。序盤から心拍数を上げたせいか、すごく気持ち悪くなり、食べても飲んでも気持ち悪さがおさまらなかった。下りで飛ばしたいのに気持ちが悪くて飛ばせないし、体も思うように動かない。汗も尋常じゃなく大量にかいていた。とりあえずは下り用に作った薄めたフラスコのジェルを飲む。本当に、この調子でゴールまで辿り着けるのか?入山峠の通過も予定では50分で行くところが52分となり、去年よりきついし、本当に焦る。とりあえず浅間峠まで行ったらなんとかなると信じて進んだ。

 途中の神社前の登りで女子選手に抜かれて、どんどん差が開いていく。もうこんな調子じゃ、どうしようもできないんじゃないか?惨敗するくらいなら浅間峠でリタイアしたほうがいいんじゃないか?とこの時は思っていた。下りは相変わらず飛ばせない。他の選手についていくのがやっとだったし、登りは全然進まずどんどん抜かされたし、走れる区間では余計に抜かされ我慢のレースが続いていた。急な下りのところでようやく女子の選手が見えた。登りで離されて、下りで少し追いつく、を繰り返しているうちにだんだんと距離が縮まったようだ。追いついてからは少し言葉を交わし、その後の下りに入ってからは少しずつ差が開いてきた。得意の下りで離さないと!という気持ちが強くて、『絶対こけないで』と言われていたのに、少しぬるぬるして滑りやすいところでこけて腰を強打。これはやばいと思いながらも逃げなきゃ!と思って浅間峠までダッシュした。浅間峠では20秒差で私が先行して通過した。でも去年より15分も遅い3時間6分で通過。なのに、去年より何倍も辛いのはなぜ?浅間峠以降は試走をしてないので去年の記憶が頼りになる、がしかし!去年の記憶がほとんどない。こんなに走れるコースだったっけ?全然覚えてない。依然心拍数は高いし、つらいのがさがおさまらない。でもがんばって走らなきゃ追いつかれると思い、みんなが歩いていても、走れそうなところは這うようにしてでも頑張った。そして、浅間峠を過ぎた25キロぐらいから、だんだん気持ち悪さも薄れてきて少しずつ体が楽になって走れるようになってきた。ようやくハセツネが楽しいかもって思えてきた。

 第1関門から三頭山を登り始めるまではわりと走れるところが続く。浅間峠までの遅れを取り返そうと下りはダッシュ、登りは傾斜が緩いところは小走りで進んだ。第1関門の浅間峠までとはまったく違い、どんどん前の人を抜くことができ、あっという間に三頭山の登り口まできた。ここまで飛ばして来たせいか、少し疲れてきた。でも三頭山を登ればこの大会、唯一のエイドステーション月夜見駐車場があり、そこまではほとんど下り基調となるのはしっかり憶えていた。『あと少し頑張れば登りが終わる』と心の中で唱え続け、係の人にあと800mで山頂だよと言われてテンションがあがった。思いのほか800mが長く感じ、心拍数は上がり、ぜーぜー言いながらも『まだかな?まだかな?』と思いながら登っていると、ほどなく山頂についた。ようやく下れると思い、腰のライトもヘッドライトもつけて下り始めた。今年は超明るい腰ライトのUltrAspire ”LUMEN600” を使っていたのでまったく恐怖心なく下ることができた。


 第2関門で6時間以内に通過しないと10時間は切れない。この時、自分の走っている場所が全然わからないし、『あと15分で6時間たっちゃうよ~』と思っているとようやく月夜見の駐車場の明かりが見え、なんとか5時間55分で通過できた。月夜見まで来ればあとの30キロは下り基調だから、おそらく4時間以内で走りきれるだろうと思って少し安心した。

 月夜見から第3関門まで去年は想像以上に登りが急に感じ撃沈してしまい、1位の人に全然付いていけず、そこからペースダウンして大岳山の下りで抜かれて結局3位まで落ちてしまった区間。『今年はなんとしてもここを耐えなければ』と思い走っていた。けれども、やっぱり。御前山も大岳山の登りもきつかった。ここを登りきれば日の出山は残っているものの、本当にあとは下るだけ。そう思って、下りは頑張って走り、登りはテンポよく登りを繰り返して前へ前へ進んだ。でも御前山も大岳山も本当に長かった。特に大岳山は鎖場はあるし岩場もあるし、『終盤でこんな山くる??』って感じで『いつになったら山頂にたどり着くんだろう?』と思っていた。そして、なんとか大岳山の山頂に着いた。ジェルとべスパしか食べていないから、とにかくお腹が空いて『早くゴールしたい』だけを考えていた。

 大岳山の下りからは試走していたので、『もう、あとは大丈夫』と思って下り始めた。しかし、予想外に足の裏が痛くて思うように飛ばせない。下りはガンガン飛ばす予定だったのに全然進まない。試走のときよりもペースは遅い。『さっきまで走れてたじゃん!!あと15キロもないのに』って自分に言い聞かせるけど、全然足が前に出ない。ちょっとした登りも歩いてしまう。しまいには下りすら歩きたい気持ちになる。なんとか第3関門を通過した。ここでのタイムは去年と4分しか変わらない。『去年より下りは早くなっているから、いつも通りいければ9時間30分切れるかも!!』と思うも、全然体には力が入らない。『とにかく登りは歩いていいから、下りは這ってでも走ろう』と思って進んだ。登りは大股で歩くと足がつりそうで、下りは足裏痛いし、足の感覚があんまりない満身創痍であった。

 『日の出山まで登ったけど、金毘羅尾根あとは10キロ下りなのか』、たかだかあと10キロなのにこんな気持ちになるとは思ってもなく、いろいろと動揺した。試走のときはいいペースで下れた。『このペースで下れれば前に先行されていても負けないな』とすら思っていたのに、まさかこんなにも走れないとは想像すらしていなかった。後ろから来るヘッドライトの明かりが見えるたびに『もしかして女子?ここで抜かれたら悔やんでも悔やみきれない』と感じた。けれども体は全く動いてくれない。『タイムよりとにかく優勝したい!!!』と、改めて『自分はハセツネを優勝したいんだ』という気持ちを再確認できた。試走の時にあと○キロ地点の箇所を聞いていたからそれを頼りにとにかくゆっくりでも走って前に進んだ。なのに、看板のあと○キロ地点と聞いてた距離感覚が合わない。もう残り5キロもないと思っていたのにあと5キロの看板が出てきたときは『まじかよ』って声を出してしまった。『いや、でもあと5キロってことは残り4キロちょっとってことだからそんなにない、4キロっていつも走っているコースと同じじゃん』と、ここでも自分に言い聞かせる。残り3キロ地点の標識も自分の感覚よりだいぶ遅かったが、『あと15分もあれば終わる』と思って頑張った。

 残り2キロ地点はこの橋が目印と聞いていた橋が遂に来た!!『あと少しでゴールできる』と思ってしばらく行くと、残り2キロの看板が出てきた『えー!!!!うそでしょ??』と頭の中で叫んだ。残り2キロからがまた長い。ヘッドライトのバッテリーが少なくなって来た為か急に目の前が暗くなり、明るさは腰ライトが頼りとなった。暗くなるとまたスピードが落ちて進まなくなる。あと少しなのに、本当に長い。   

 やっとアスファルトに出てきた。もうここはひたすら体を前に落とし込んで重力に任せて進むしかない。『もう早くゴール行きたい』以外はこの時何も考えていなかった。やっと住宅地の明かりが出てきたときは、なんとも言いようがない感情でいっぱいだった。金毘羅尾根を走っている時は『やっと1年間目標にしていた優勝にたどり着けるのかなどと考えるのかな』と思っていたけれど、それよりも『やっと完走できる、ゴールできる』という気持ちの方が大きくて、住宅地から五日市会館までのロードは長かったようで一瞬だった。

 五日市会館のところ見えた時は本当にたくさんの人が待っていてくれていた。しかも、その中にユースの友人たちやスカイランニングで知り合った人たちが『たかこ! たかこ! 』とコールしてくれてもう嬉しいどころじゃないくらい嬉しかった。初めてハセツネを勝てたことよりも完走できたことがうれしいと思った。ずーっとふらふらだったのに、住宅街の角を曲がって五日市会館見えた時は本当にダッシュできた。人間って人から応援されるだけでこんなに頑張れるのかと改めてびっくりした。ゴールして、いろんな人にインタビューされても、全然優勝した実感は湧かなかった。浅間峠までのゴールまでたどり着けないんじゃないかということを経験したからこそ、ゴールができるだけで本当にうれしかった。人間は一回ダメになっても必ず復活できることを身を持って体験できた瞬間でした。

 長い距離のレースは一度やられてもきっと復活できるからおもしろい。

今年はスカイレースやバーティカルレースなどの短い距離ばかりを走っていたので、長い距離はもういいかなって思ってた時期もあった、ハセツネも今年勝てたらもうやめようと思っていたけれど、やっぱりハセツネはエイドがないし全部持たなきゃいけない、という今では数少ないレースだから特別だし、ただ長いレースを走るレースとはまた違っておもしろいし、来年も必ず出たいと思った。

今年は気温が高い為か脱水や水不足でリタイアした人が多く、かなり過酷な状況になったけれど、サバイバルレースになればなるほど自分は得意だし、実力以外の強い思いが試されて面白いなと思ったレースでした。

UltrAspire ザイゴス2.0(文中の写真の製品は来期のプロトモデルです)¥23,800(本体価格) UltrAspire ルーメン600 ¥25,500(本体価格)
レポーター紹介
髙村貴子
髙村貴子

1993年1月石川県出身の現在、北海道旭川市在住の大学4年生。クロスカントリースキーのトレーニングの一環でトレイルランニング大会に出たのがきっかけで走り始める。
2016年イタリアで開催されたスカイランニング・ユース世界選手権では女子2位、同年のハセツネでは女子優勝と成長著しい注目の若手アスリート。