『山に棲む霊』日本人と山の信仰
山を神とし、山に霊魂が棲むという信仰は、 いつの時代に生まれたのか? 祖霊信仰とアニミズムだけでは解けない 山に対する観念の歴史的な変遷と その実態を明らかにする。 本人の魂のふるさとを求めて、 失われゆく霊の記憶をよびおこす。 日本人の山と霊魂をめぐる 思想をよみとく思索の書。 心身の浄化を目指した古代人は山中深く分け入り、中世の人々は汚れた俗世と離れた山中の聖域を求めた。その背景には日本人の自然美への憧憬があり、厭離すべき対象であった山を浄土への階梯とみなす思想が生まれる。死後世界の世俗化と現世内化の果てに辿り着く思想空間が山を聖なるものとし、祖先崇拝に結び付いていく。無数の行場が機能していた時代の視点に立って現代文明の地平を客観視して相対化し、列島の信仰世界が果たしてきた役割に、いま改めて目を向けてみたい。
目次
序 章山に憩う死者三森山に登る/モリ供養の夏/死者の籠る山/ハヤマと奥山/四国の死者供養/柳田國男の死生観/春来る鬼第1章山上の神々1 山に眠る死者たち二上山の落日/大津皇子の伝説/鎌足と多武峰2 死者の居場所出雲の猪目洞窟/葬送の地としての洞窟3 神のいる山山の聖性/神信仰の始まり/山麓祭祀4 人を神にする山山上の墓地の意味/箸墓の造立/前方後円墳の思想5 神となった天皇天皇霊の登場/天皇霊誕生の背景/陵墓制の制定/山としての山陵 /天皇霊の淵源第2章山に分け入る人々1 山寺の誕生延暦寺と高野山/神のパワーを求める行者/パワーの源としての清浄/山林修行の背景2 山林修行者の登用山に入る官僧たち/呪僧の政界進出/最澄の挑戦 /空海の高野開山3 神と仏の出会い神との対面/定住する神/神社の成立/等質化する神と仏4 霊験所の成立霊場岩屋寺/参籠の作法5 寺院のコスモロジーの変貌弘法大師入定伝説の形成/高野山のコスモロジー /黒石寺の大師窟/慈覚大師信仰と山の寺第3章仏の飛来する山1 中世的霊場の形成納骨信仰の広がり/可視の仏と不可視の仏/認知できない他界の拡張/彼岸に導く神仏像と本地仏/垂迹としての祖師2 彼岸への回路としての山霊場の叢生/慈覚大師入定窟/一遍上人と岩屋寺/この世の浄土とあの世の浄土/「勝地」に立つ霊場/数寄と成道の間で3 墓地と霊場上行寺東遺跡/房総の山林寺院/標識としての経塚/4 山に集う悪霊愛宕山の怨霊たち/暗躍する天狗/山に棲む死者5 熊野信仰の広がり名取の老女/東北地方の熊野信仰/水運業者が信仰した熊野の神/補陀落渡海を実行する人々/名取の那智神社に立って第4章祖霊への道1 仏界の消えた曼荼羅説法する草木/悟りを求めない時代へ/「草木国土悉皆成仏」/「熊野観心十界曼荼羅」/墓碑の普及2 山に憩う死者山上の霊地/生身の地蔵の霊地/彼岸の岩船参り/神の山から仏の山へ/伝えられた二つの縁起3 伊勢を見おろす霊場「朝熊駆けねば片参り」/経塚に託す想い/魔王と契約するアマテラス4 山中他界観川原毛地獄/立山の地獄/地獄と極楽の距離/地獄からの脱出5 怪異現象の舞台としての山冥界への関心の高まり/平田篤胤がイメージする幽冥界/『仙境異聞』に描かれた山第5章生者と死者の交流1 信仰登山の盛況湯殿山/芭蕉の参詣/里修験/立山登拝2 布橋を渡る人々「立山曼荼羅」/布橋灌頂会/浄土信仰の変容3 女人禁制九度山の慈尊院/女人高野/血の池地獄と女人禁制/別府の血の池地獄4 新宗教と富士山信仰富士塚に登る/富士講/富士講の拡大5 登山の近代腕をもがれた仏たち/禁止された修験/観光登山の時代へ/観光開発終章山に積み重なる祈りの心祖霊信仰とアニミズム/山に蓄積した聖性の地層/神奈備から経塚の山へ/城下町を睥睨するヒトガミ/遠野の早池峰神社/一九七二年の早池峰岳/朽ち果てた霊場/変わりゆく里山/祖霊と神の消えた山
佐藤弘夫(さとう・ひろお)
1953年、宮城県生まれ。東北大学大学院文学研究科教授などを経て、同大学名誉教授。文献史料の厳密な読解による実証研究をベースにしながら、フィールドワークの手法を取り入れ、想像力を駆使して、大きな精神史のストーリーを立ち上げることをめざしている。著書に、『鎌倉仏教』(ちくま学芸文庫)、『神国日本』(講談社学術文庫)、『アマテラスの変貌』(法蔵館文庫)、『日本人と神』(講談社現代新書)等がある。7冊の本が英語・中国語・韓国語に翻訳され、コロンビア大学・北京大学・台湾大学・フィレンツェ大学・チェコアカデミーなどで開催された国際会議の基調講演・招待講演は50回を越える。
ニュース
『山に棲む霊』日本人と山の信仰が2026年7月25日の毎日新聞に紹介されました。


