長く愛用してもらい、ゴミにしないというミッションを掲げたサンダル「チャコ」
チャコは、現在もコレクションとしてメイドインUSAのモデルを生み出し続けている。写真はパックマンとのコラボモデル(5月頃、発売予定)。
「うちで『ムーンストーン』を扱っていた時期があるのですが、その副社長だった人物が、おもしろいサンダルがあるからと言って紹介してくれたのがチャコ(Chaco)だったんですよ。ひと目見てユニークなサンダルだと思いましたね。それまでサンダルといえば、ビーチサンダルかトイレで使うようなサンダルしか知りませんでしたから。ウェビングを自在に動かせ、誰の足にもフィットすることや、しっかりとしたアウトソールがついていることなど、まさに靴みたいなサンダルだ、と驚きました」
そう笑うと、赤津孝夫会長はチャコとの出会いを語りはじめた。
さっそく日本での販売をもちかけたところ、当時のチャコは会社の規模が小さく、生産が間に合わないからむずかしいと断られる。
「それでも、うちの店だけでいいからと頼みこんで、ようやく売り始めたんです」
当時、チャコがあったのはコロラド州のパオニア。デンバーといった大都市でもなければ、ロッキー国立公園の近くでもない。デンバーから300マイル(480km)ほど西へ行った、人口1500人程度の小さな町だった。
コロラド州でラフティングガイドをしていたマーク・ペイジェンが「川で過ごすのに適したフットウェアがない。ならば自分で作ればいい」と考え、1989年に誕生したのがチャコのサンダルだった。そんなマークは、東部のニューヨーク州バッファローで生まれ育っている。
「自然に近いほうが人間らしい暮らしができるという思いが、自分のなかで生まれてきた。そうして、旅の果てにたどり着いたのがパオニア。東にはロッキーの山々、西には砂漠が広がっているんだよ」
1989年に誕生して以来、多くの旅人にパートナーとして選ばれてきたチャコ。チャコとの旅をインスタグラムで#chaconationのハッシュタグをつけて公開しているチャコフレンズも多い。
マークは赤津会長にそう話していたという。パオニアには信号機がひとつもないけれど、補って余りあるほどの多様な自然が残されていた。
「アメリカって車で移動することが普通じゃないですか。しかも移動手段がない田舎では、ほぼ車と言っていい。日本でもそうですよね。チャコがあったパオニアは、レストランが一軒か二軒しかないような町です。そんな町でありながら、自転車で通勤する人には特典を与えられていました」
そうして、赤津会長にはマークのこんなひと言が胸に残っているという。
「私たちは、いつかゴミになるものを生産している。それを重々承知しているからこそ、捨てられるまでの時間を延ばすことに貢献したい」
そうしたブランドメッセージを発する商品が少ないこともあって、店に並べることで、「物を大切にする」というチャコの信念を日本でもつなげていきたいと思ったという。
長く愛用してもらうことがチャコのミッション。アメリカの工場でソールの貼り直し、ウェビングの交換・修理を行なっている。
長く愛用してもらうために、ミッドソールにはへたりにくいポリウレタン素材を使っている。さらに、チャコではソールの交換とウェビングの交換を行なっている。ソール交換はアメリカの工場へ送るため時間を要するし、フットベッドやソールにしっかりとした素材を使っているため、新しいものを購入するのと費用もそれほど変わらない。けれど、愛着のある一足を修理したいと日本から年間200足近くのチャコが、リソールのために海を渡っているという。
「アメリカ人はサンダルに限らず履物は消耗品だという認識を強く持っています。たしかに靴やサンダルは消耗品という部分もあるとは思うけれど、マークはその認識を変えていきたいと思っていたんでしょうね」
チャコの代表的なモデルであるZ1クラシック(左上/M's Z1 CLASSIC USA)、親指部分にループが付いたタイプはZ2のシリーズ(右上/M's Z CLOUD2)。今期、レザー仕様のモデルが新登場(左下/M's WAYFARER)。ウィメンズモデルも充実している(右下/W's Z CLOUD X)
ウェビング形状や張り替えができるソールなど、チャコサンダルの特長の多くは、設立当初から受け継がれている。さらに足を専門とする整形外科医の力も借り、人間工学的な側面からも快適なデザインを追求し続けている。
「多くのサンダルはぺったんこじゃないですか。チャコは履くことで足のいろいろなトラブルを防いでくれるそうです。アメリカに足裏学会というものがあるんだけど、そこに認定されているんですよ。医療器具ではないけれど、足をしっかりサポートする。歩くことって野外で遊ぶにはとても大切なことですから」
FIT(フィット性)、COMFORT(快適性)、SUPPORT(サポート性)、PERFORMANCE(性能)という4つのポイントを追い求め、自然のなかで快適に過ごすために生まれたチャコというサンダル。
パオニアに工場はなくなり、創業者のマークはチャコを手放してしまったけれど、長く愛用してもらい、捨てられるまでの時間を延ばすというコンセプトはいまだに貫かれている。
(文=菊地 崇 写真=A&F)
*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。