テント業界の隠れた実力者。アルミポールのトップブランド「DAC」

テント業界の隠れた実力者。アルミポールのトップブランド「DAC」

生粋の技術者の創設者が力学的な観点から製品を捉え、環境に配慮した独創的なギアを開発するブランド
「キーパーソンっていうのはいるんだなぁって思いましたよ」

A&Fの赤津孝夫会長へのインタビューは、毎回ブランドごとのストーリーをうかがってきた。が、なかにはブランドの枠を超えて活動する人のことが話題にあがる事がある。

話のきっかけはヘリノックス(Helinox)のテントだった。2019年春から、ヘリノックスが2種類の小型テントとともにヘッドクリアランスの大きなシェード、そしてタープをリリースする。

「みなさんの意識のなかでは、ヘリノックスは椅子の会社だと思うんですよ。そのヘリノックスがなぜテントなんだ?と思われるでしょうね」

たしかに、それは誰もが抱く疑問だろう。

「それにはディーエーシー(DAC)っていう会社の話をするのがいいと思うんですよね」


ディーエーシーの創設者、ジェイク・ラーさん。独特の視点で、アルミの加工に大きな技術革新をもたらした。アウトドアには縁のない生活を送っていたが、力学的な観点からテントを捉えることで、風に強いタフで軽いテントの原型をいくつも作り出してきた

韓国のディーエーシー本社。その佇まいは完全に研究所。ここですべての開発や製造などを一貫して行っている。驚くべきことに、その製造機械もすべて独自に開発した自社製。だからこそ、他の誰もディーエーシーのまねすることができない

会長の話はこうだ。

「ディーエーシーは韓国のアルミ製テントポールのサプライヤーです。社長はジェイクさんっていって、若い頃にアメリカで金属加工や工業全般を学んだ技術者です。その勉強を終えて韓国に戻って、さぁ何をしようっていうことになった時に、テントポールに目をつけたんです」

軽く、丈夫で、適度なしなやかさを備えていなくてはならないテントポールは、技術者として、非常にチャレンジしがいのある製品だったのだ。

「当時、世界のテントポールはアメリカのイーストン社のものが主流でしたが、ディーエーシーはまたたく間に世界の多くのテントメーカーにポールを提供する一大ブランドになりました」

会長によると、ディーエーシーが人気を呼んだ理由は3つあるという。

「ひとつめは、なんといっても製品のクォリティですよ。軽くて丈夫なだけでなく、求められる特性に合わせて軽さ重視や丈夫さ重視、時にはしなやかなに曲がるといった、さまざまなポールを開発してきました」


ディーエーシーにはこんなに多くのテントポールのラインナップが存在する。「GREEN」のロゴが描かれたものは、グリーンアノダイズドという特別な技術で製造されている。有毒物の排出を極力抑え、環境負荷を抑えたサスティナブルな製品

ポールとポールとをいかに効率よく繋ぐか。力学的にも無理がなく、製造面でも効率がよく、環境負荷の小さなものを求めて、ディーエーシーでは細かな開発を重ねてきた。この継ぎ手の研究が、今回の大型テントの実現に大きく役立っている。詳細は後述

「ふたつめは環境に優しいこと。従来、アルミの防錆加工では製造過程で多くの有害物質を排出してきました。ディーエーシーではこの加工方法を、非常にクリーンなものに改良したんです。このことが、自然愛好派の多いテントメーカーからも評価されたんですね。
そしてみっつめは、ジェイクさんがテントデザイナーとして優れた才能を持っていたことです」


■Tac. Attack Solo
3レイヤーメンブレンを採用した半自立式テント。特徴的なベンチレーターともあいまって、シングルウォールとしては結露も少ない。
カラー:コヨーテタン サイズ:W245×D90×H90cm 収納サイズ:W16×D50×H16cm 重量:1490g(最小重量 1350g) フライ素材:20デニール ナイロンリップストップ 3レイヤー/耐水圧5000mm フロア素材:40デニール ナイロンリップストップフィルム加工/耐水圧10000mm ポール:DAC Featherlite NSL 8.5mm Outside Diameter パーツ構成:テント本体、フライ、ポール ×2本、ペグ(J-Stake S ×8本)、自在付きガイライン(1.5m ×1本)、スタッフバッグ、ポールバッグ、ペグバッグ


ソロ用としては十分な広さをもつ


本体はリップストップナイロンと3レイヤーメンブレンを組み合わせた

最後の理由は非常に興味深いものだ。

「テントは力学を考慮した構造物です。風の影響を考え、居住性を加味していく必要があります。その時に必要になるのはテントポールをどういった構造にするかです。つまり、どんな素材をどう使ってテントポールを作り上げるのかを考える必要があります。ということは、テントをデザインする場合、テントポールの技術者こそがいちばんの適任ということですよ。
ディーエーシーでは早くからそのことに気がついて、テントを総合的にデザインすることを視野に入れていました。アジアエリア最大級の風速40m/s以上の試験ができる風洞実験室を自社施設内に作ったのもそのためです。
ジェイクさんはこの風洞実験室で、自分がデザインしたテントを数多くテストし、テントポールを改良し、つぎつぎに世界の名作といわれるテントのひな形を作り上げていったんです」

こうした実践的な開発のなかで、ディーエーシーは優れたテントポールを次々に作り出し、世界中のテントメーカーに供給するようになる。


■Tac. Attack 1.5
こちらは自立式の1.5人用。簡単な設営と高い耐風性を見据えてデザインされており、風洞実験では風速40m/sに耐えている。
カラー:コヨーテタン サイズ:W280×D123×H98cm 収納サイズ:W17×D50×H17cm 重量:2210g(最小重量 1940g) フライ素材:20デニール ナイロンリップストップ 3レイヤー/耐水圧5000mm フロア素材:40デニール ナイロンリップストップフィルム加工/耐水圧10000mm ポール:DAC Featherlite NSL 9mm Outside Diameter/9.6mm Outside Diameter パーツ構成:テント本体、フライ、ポール ×2本、ペグ(J-Stake S ×12本)、自在付きガイライン(1.5m ×1本)、スタッフバッグ、ポールバッグ、ペグバッグ


使用されるのはもちろん、ディーエーシーのポール。環境負荷の小さい、グリーンアノダイズド工法で作られたものが採用される


ピンと張った時に理想的な角度になるよう、細かく調整されたペグループ。縫いの回数や使用する素材など、細かなところまでこだわった

「その過程で、自社のアルミ加工技術を活かして作ったのがヘリノックスの椅子です。デザインしたのは工業デザイナーであり、ジェイクさんの息子さんのヤンさん。この流れで、ヘリノックスは独立した会社として歩み始めることになります」

つまり、ヘリノックスは名実ともにディーエーシーの子会社、というわけだ。

またヘリノックスはキャンプファニチャーのブランドとして急成長を遂げ、すぐにそのアイデアを形にするプロジェクトとしてターグ(TERG)を設立する。こうしてディーエーシーからヘリノックス、ターグへと、新しいものを作り続ける遺伝子は受け継がれていく。


■Tac. Recta 3.5
遮光性やUVプロテクション性を備えており、日陰を作るためのタープとして高い能力を発揮。また、10個のループによってさまざまな形で使うことができる。
カラー:コヨーテタン サイズ:W350×D290cm 収納サイズ:W11×D40×H11cm タープポールを含まない重量:1210g(最小重量 1010g) フライ素材:75デニール リップストップポリエステル 185T(ブラックPUコーティング)/耐水圧1500mm ポール:DAC DA17 19.5mm Outside Diameter/Pressfit 21.3mm Outside Diameter パーツ構成:タープ本体、タープポール 2100AJD ×2本、ペグ(J-Stake M ×10本)、自在付きガイライン(7m ×2本、3m ×6本)、スタッフバッグ、ポールバッグ、ペグバッグ


しっかりした強度のポールによって、安定した設営が可能


遮光性を備えることで、タープとしての機能をより明確にした

さて、話をヘリノックスのテントに戻そう。こうしたバックグラウンドのなかで、ディーエーシーのジェイクさんは考え続けていたことがあるのだ。

「いくらジェイクさんがテントをデザインしても、製品化の過程にはテントを発売するメーカーなりの考えが入ってきます。コストや製造方法などの理由で、ジェイクさんが思ったものとは違うものになることも少なくありませんでした。
今回、ヘリノックスからテントを発売することになったのは、そうしたジェイクさんの想いを100%形にするためです。一切の妥協なく、テントポールを作る技術者が、自社の製品の良いところをぞんぶんに引き出し、テントに必要な性能をすべて満たすような素材を厳選して、そこに持てる技術のすべてを注ぎ込んだ。幕体自体もヘリノックスで培った素材選びや縫製技術、撥水加工などさまざまなものを盛り込みました」


■Tac. Field 4.0
2つのY型ポールによって十分なヘッドクリアランスを持つフィールドテントを簡単に設営可能とした。ドアカバーはロールアップして、開放感を楽しむこともできる。
カラー:コヨーテタン サイズ:W225×D400×H175cm 収納サイズ:W70×D20×H17cm 総重量:4100g(最小重量 3550g) フライ素材:75デニール リップストップポリエステル 185T(ブラックPUコーティング)/耐水圧1500mm、75デニール リップストップポリエステル 210T(PUコーティング)/耐水圧1500mm ポール:DAC DA17 18.55mm Outside Diameter/16mm Outside Diameter パーツ構成:テント本体、ポール ×2本、ペグ(J-Stake M ×10本)、自在付きガイライン(2m ×4本)、ポールバッグ、ペグバッグ


大型のテントをふたりでラクに組み立てることができるよう、ジョイント部分はボールタイプに


このY字のジョイントこそ、このテントを実現させたポイント。先述した、アルミポールの継ぎ手の研究が実った

つまりこれは、表舞台に立つことなく素材を作り続けてきた技術者の、ディレクターズカットともいえる作品だ。素材のことを誰よりも知る人がキーパーソンとなり、ディーエーシーの技術をベースに、ヘリノックスがもつアーバンなデザインセンスと、ターグが内包する新しいものにトライする精神を注ぎ込んだのだ。

「それにね」

と会長は話を続ける。

「彼らは素晴らしい遊び心を持っている。たとえばテントペグにしても、自分たちの技術があればもっと軽くて丈夫なものが作れる。そう思ったら、サッと作っちゃうんですよ。で、できたから見てくれて、って嬉しそうに持ってくることもあるんです」

お隣の国だから、試作品を持って日帰りすることもできる。そんなフットワークの軽さも、ディーエーシーならではだ。


■J-Stake ペグ Sサイズ 10本セット
DACの技術を注ぎ込んだ頑丈なアルミ製テントペグ。5色のカラーで楽しさを演出/長さ:16cm 1本あたりの重量:12g セットカラー:ブラック、オレンジ、ブルー、レッド、イエロー (収納ケース付き)


■タープポール 2.0
簡単にすばやく長さ調整ができる軽量タープポール/長さ:104〜180cm 重量:250g


■The Deuce of spades
軽く頑丈なスコップは、キャンプをはじめとした野外活動の必需品。固い地面は柄の部分を使って掘ることもできる/サイズ:17.3×6.6×2cm 重量:17g

「彼らが作っているものを見れば、ディーエーシーという会社が何を考えているのかがよくわかります。自分たちの技術を使って、アウトドアをとことん楽しくしたいと思っているんです。実際、今回のテントには溢れるほどの情熱が込められているんです。その熱はきっと、多くのお客さんの心を引きつけると思います。発売を楽しみにしていてください」

(文=林 拓郎)

*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。

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