「カブー」とともに、どこまでも見渡せるサイコーの1日を!

「カブー」とともに、どこまでも見渡せるサイコーの1日を!

「限りなく視界良好」を意味する航空機パイロットたちの合言葉を意味するブランド名

2017年秋に埼玉県・長瀞で行なわれたKAMP KAVUでのツーショット。ベイリーは赤津会長のことを“He is my second father."と話していた。ただのビジネスパートナーではない、人と人とのぬくもりのある関係が、アウトドアの小さな業界にはまだ残っている。

山で、海で、川で、仲間と1日を過ごしたあとの心地よい充足感を、読者のみなさんなら知っているだろう。そんな1日を、ベイリーの家では「カブー・デイ」と呼んでいた。

ベイリー・バーは、コットンキャンバスのキャップやウェアで知られるカブー(KAVU)の創業者。耳慣れないブランドの名は、「限りなく視界良好」を意味する航空機パイロットたちの合言葉「CAVU(Clear Above Visibility Unlimited)」のCをKに変えたものだ。ベイリーの父親は漁師だったがハングライダーの元世界チャンピオンでもあり、ベイリー自身も熱狂的なパラグライダーだった。空を飛ぶのにもってこいの視界良好な1日は、たしかに仲間と過ごすにもサイコーに違いない。

アイコンでもあるストラップキャップは、アラスカでサーモン漁をしていたベイリーが過酷な環境にも耐えられるよう考案したもの。ツバの芯材にプラスチックとポリウレタンを使っているため水に浮き、その裏側は黒くして照り返しから目を守る。サイズ調整も兼ねる特徴的なウェビングは、ちょうど同じ頃にデビューしたテバのサンダルにヒントを得た。肉厚な10オンスのコットンキャンバスは頑丈で、使い込むごとに色あせて風合いを増す。「ストラップキャップ」

最初の製品はストラップキャップ。アラスカの漁でいくつものキャップを風に飛ばされたベイリーが、悔しい思いをしないで済むように生み出した自信作だ。そして、このキャップを日本に紹介したのがA&Fである。まだ若いブランドは、極東のディスリビューターとどんな風に出会ったのか。昨年秋に行なわれたイベント「KAMP KAVU」で来日したベイリー・バー本人とA&F赤津孝夫会長に話を聞いた。

「赤津会長と出会ったのは、1993年か94年のリノのショーだったと思います。インターナショナルレベルのショーに出るのは初めてのことで、お客さん(店やディストリビューター)とどんな話をすればいいのかもわからなかったけど、製品のアイディアだけはあって、ブースを出していました。赤津会長のことは、共通の友人であるダン・ダールが紹介してくれたんです。会長はストラップキャップを見て、おもしろいねと言ってくれました」

創業当時の若きベイリー。アメリカ・ワシントン州北西部、ピュージェットサウンドに浮かぶサンワン島の漁師の家に生まれた。17歳の時にサマーバケーションを利用してアラスカでサーモンを釣る会社「ブリストル・ベイ・ボート」を設立。漁を行なう船上の日々でストラップキャップの着想を得る。後ろの壁にかかっているサンバイザーは、その原型となったもの。

ダン・ダールはブランドとディストリビューターの間を仲介する仕事をしていた。当時は日本に住んでいてA&Fとも親しく、リノのショーでは赤津会長と一緒に会場を回っていた。

赤津会長もその時のことをよく覚えている。

「ストラップキャップは市場に類似品がなくてね、オリジナルでとにかくユニークでした。丈夫なキャンバス素材で、風に飛ばされないストラップが付いていて、デザインもよかった。ブレイクの要素が揃っていましたね」

実際に、ストラップキャップはまたたく間に大ヒットとなった。当時のドタバタを思い出したのか、笑いながらベイリーが話す。

「(ブランドを)立ち上げたばかりで、プレシーズンにサンプルを見せてオーダーをもらって、それからものを作って売るという順番さえ知らなかったんです。最初からものすごく沢山のオーダーをもらったのはよかったけど、生地を買うために前払いするお金を工面するのが大変でした」

右も左もわからないような状態のなかで、初めて会った海外のディストリビューターと仕事をするのは不安ではなかったのだろうか。

「赤津会長は人柄があたたかくて話しやすかったし、会長と古くから知り合いだったダンが、強烈に推薦してくれました。この人は本当に大丈夫。信頼できるからって(笑)」

人柄。一見ビジネスとは関係なさそうだが、赤津会長もなによりそれを重視している。製品が優れているのはもちろんだが、それを手がける人間が信頼できるか、尊敬できるか、共感できるか。

「製品イコール人、作る人です。それがいちばん大切だと思っています。カブーは、ベイリーのあたたかい人柄が製品にも表れていますよね。オーナーの人柄が製品に反映されている端的な例じゃないかな。業界にはテクニカルな製品はいくらでもあるけれど、ライフスタイルに合うというものはなかなかない。それも、うわべだけでなく“カブーらしさ"というか、フィロソフィがちゃんとある。そういうところに共感しましたね」

ストラップキャップからはじまったラインナップは拡大し、現在はウェアやバッグ、アクセサリーも手がける。ウェアは化繊素材を使ったものもあるが、カブーらしいといえば、やはりコットンキャンバスのシャツやパンツだ。

簡単に羽織ったり、脱ぎ捨てられる(throw)シャツ。シンプルなデザインは、ボタンなどが漁の最中に網に引っかからないようにつくられたワークウェアをイメージしたもの。いつでも手元に置いておきたい作業着というコンセプトだ。丈夫なコットンキャンバスは焚き火にもぴったり。アノラックタイプのほかにフルジップもある。「スローシャツロングスリーブ」

クライミングロープを使ったワンショルダー。表側に丈夫なコットンキャンバス、裏側にポリエステルを使って防水性を高めている。全13色。柄が入ったオリジナルの生地も人気が高い。「ロープバッグ」

「テクニカルなものに挑戦したこともありますが、しっくりこなかったんですよね。コットンキャンバスを使ってブランドをスタートしたということもあるし、アメリカのノースウエストに住んでいると、コットンのウェアはとても身近なものです。今日は電車でここまで来ましたが、日本のみなさんはアメリカ人以上にコットンを普段着として愛用しているように見えます。カブーも、アクティビティで着るというよりは、そのビフォアアフターでリラックスして着られるようなものを目指しています。まさにこうして焚き火を囲んで会話を楽しんだり、“ちょっと飲みに行こうよ"なんていうときに着て欲しいと思っています」

焚き火を囲み、思い出話に花を咲かせた。25年前の懐かしい日々に、あっという間にタイムスリップする。

大きな体をかがめて、焚き火に手をかざしながらベイリーは話してくれた。

カブーには、ユーザーを限定せず、それぞれのライフスタイルに寄り添うかのようなあたたかいその思いを、ぎゅっと凝縮したスローガンがある。「Busy Livin'-Have a KAVU day !」。日本語にするなら、「せわしない世の中だけど、サイコーの1日を!」という感じだろうか。カブーは2018年で25周年のアニバーサリーイヤーを迎えた。その思いは、25年前もいまも、そしてこれからも変わらない。


▪️KAMP KAVU 2018
KAVUのファンが集まるキャンプイベントが今年も開催される。ベイリーも来日予定。日程は10月13日(土)~14日(日)。場所は千葉県の昭和の森フォレストビレッジ。アメリカ式のドッチボール大会や、小雀陣二氏のクッキングデモ、ベイリーがNo1レシピを選ぶワンバーナークッキングなどコンテンツ盛りだくさん。キャンプサイトはすでに完売のようだが、今後キャンセルや追加が出る可能性もあるので、あきらめないでこちらをチェック。

【文=伊藤俊明 写真=伊藤 郁、エイアンドエフ 】

*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。

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