磨き抜かれた逸品を、道具の観点からウェアを生みだし続ける野外研究所「アウトドアリサーチ」
じつを言うとね……。
まいったなあという顔で、A&Fの赤津孝夫会長はいたずらっぽく笑う。
「極めて個人的な話ですが、テクニカルウェアに対する興味が薄くてね……」
バブアー(Barbour)やカブー(KAVU)、ペンドルトン(PENDLETON)といった自然素材を使い、エイジングを楽しめるウェアを多く扱っているA&F。もちろん、過去にはムーンストーン(MOONSTONE)やクロロフィル(chlorophylle)など、先端素材を使ったコアなブランドを扱ってもきた。ところが、そんなクロロフィルが買収の憂き目に遭ってしまう。
「そこで、どんなブランドを扱うべきかを考えたわけです」
そして、これも私見ですがと前置きし、会長はこう続ける。
ウェアは鏡を見て、似合う、似合わないで選ぶことが多い。しかし、着るものも、用途に見合った機能に基準を置いて選ぶ、いわば「道具」であるべきだ——。
「そんななかで出会ったのが、アウトドアリサーチ(OUTDOOR RESEARCH/OR)だったんです」
ORは、アメリカを代表するギアブランド。岳友のマッキンリーにおける遭難を機につくりあげた「Xゲイター」が評判を呼び、創始者のロン・グレッグは1981年にブランドを立ち上げる。その後も、保温性に優れた「モジュラーミッド」や「ブルックスレンジャーオーバーブーツ」、世界で初めてゴアテックスを使ったレインハット「シアトルソンブレロ」、同様にゴアテックスを初採用した「クロコゲイター」など、類を見ない革新的な道具を生み出すことで世界的企業となっていった。
(左)ORの名を知らしめた傑作・Xゲイター。ブーツにフィットし、雪の侵入を許さない。(右)発売当時のXゲイター。
なかでも四肢を守るアイテムにはこだわりがあると見え、本国サイトによると、ヘッドアイテムは102種、グローブは116種がラインナップされている。
そんな生粋の「道具メーカー」に変化が生じたのが2003年、フィールドテスト中のロンが、雪崩により帰らぬ人となってしまう。
「ロンは、いわば北米アウトドア界のアイコン的存在でした。そんなカリスマの遺志を継いだのが、バックカントリースキーヤーとしても知られる、現会長のダン・ノードストロームです。彼が私財を投じてORを救い、周辺アイテムに心血を注ぐ精神はそのままに、道具の観点からアパレルラインを拡張していったんです」
赤津会長の心を動かしたのは、この「道具としてのウェア」という部分。新素材にいち早く目を付け、吟味されたデザイン、細部に効いたギミックなど、ORのウェアはファッションとは一線を画したつくりになっている。
「ところが、モデルチェンジがすごく遅いから、向こうのORショーでも人気がない(笑)。とはいえ、裏を返せば、時間をかけて徹底的に磨き抜いた商品を世に出している、とも言えると思うんです」
通気性の高い超軽量な化繊綿や、シェルへの撥水加工に環境負荷の低い非フッ素加工を施すなど、近年におけるアウトドア界のトレンドをいち早く取り入れている。しかし、それらを表立ってアナウンスすることはなく、会長がたずねると「とっくにやってるよ」となることが多いのだとか。
「そういう告知ベタな部分がうちと似ている。そういう意味でも馬が合うんでしょうね」
そう笑いながら、こぼれ話をひとつ。
「じつは一度だけ、ロンと話をしたことがあるんです」
クライマー、スキーヤーとして名を馳せた、創業者のロン・グレッグ。科学者志望だった彼は、自社をOUTDOOR RESEARCH(野外研究所)と名づける。
その昔、ORショーに出かけたあとは、ユタ州のグリーンリバーでトラウトフィッシングを楽しむことが多かったという。
「そこでレインボーを狙っているときに、たまたまカヤックツーリングでやってきたロンと会い、ひとしきり言葉を交わしたんです。彼はその一年後に亡くなってしまい、その後、うちとの付き合いがはじまった。思えば、あれもひとつの縁だったのでしょうね」
(左)メンズ フーリオジャケット。GORE-TEX C-KNITやGORE-TEX Pacliteを使い分けて使用した、しなやかで強靱なアウターシェル。(右)ウィメンズ アスパイアジャケット。防水透湿性に優れた、軽量な女性用アウターシェル。秋冬のトレッキングに最適。
(文=麻生弘毅)
*このページは、A kimama(www.a-kimama.com)にて、2018年に連載の「A&F ALL STORIES」を掲載しています。