ETHNOTEKが紡いでくれた彼らとの出会い
このTHREAD(スレッド)がここで作られていなかったら彼らと出会うことはできなかった、ここに来ることもなかった。
もしかしたら、インドの西の果てにあるこのBhuj(ブジ)という地名すら知ることはなかったかもしれない。
一本の糸のようにETHNOTEKという存在が伝統と革新、彼らと僕ら、過去といま、そして未来を紡いでいく。
伝統が脈々と受け継がれているこの土地で、その文化を通して人々の交流も紡がれ、また新しい文化を今日も作り出している。
1.Pankaj氏との出会い
僕たちは砂漠ツアーなどで有名なJaisalmer(ジャイサルメール)からバスに揺られること約16時間。
インドの西の果て「Bhuj」という場所に来た。正直、ETHNOTEKに出会うまで知らない場所だった。
ETHNOTEKのカタログを見て、インドのこんなところでこのTHREAD(スレッド)が作られているのだと思っていた場所にいま自分たちがいることがなんだかとても不思議な感じがした。
このBhujには糸や布を買い付けに来ているバイヤーが世界中から集まっていた。そのため、インドの他のところに比べると観光で訪れている人が少なく、仕事で来ているという人が多い印象だった。
どちらにしてもあまり外国人が多い場所ではなかった。
そのため、リキシャのドライバーもあまりしつこく客引きしてくるということはなく、英語が通じないレストランやお店も多かった。
僕たちがBhujに来た目的は、自分たちが使うTHREADがどの様に、どんな人達によって作られているのかを自分たちの目で見てみたかったからだ。
まず、ETHNOTEKの創業者Jake氏から紹介してもらっていたQasabのPankaj氏のオフィスを訪ねた。
Pankaj氏はBhujに行く前からメールでやり取りをさせてもらっていたが、もちろんお会いするのは初めてだった。
その為、オフィスに着いてもどの方がPankaj氏なのか最初は分からずオロオロしていると奥の方から「Daichi and Ryo Welcome ! 」という声と優しい笑顔で迎えてくれるPankaj氏がいた。
僕たちは緊張していたので表情は硬かったと思うが、出会えたことに安堵もしていた。
Pankaj氏は席に着くなり、チャイを振舞ってくれインド式の歓迎をしてくれた。
お互いに自己紹介を済ませると、Pankaj氏は僕たちのやりたいこと聞き、すぐにこれからのスケジュールなどを調整してくれた。
Pankaj氏のオフィスは想像以上大きく、従業員も方も15名ほどいた。
僕たちはここでETHNOTEKのTHREADが作られていると思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
Pankaj氏はまず、このBhujという場所について僕たちに説明してくれた。
Bhujはグジャラート州カッチの都市。その中には65以上の村が存在し、11のコミュニティー(民族)がそれぞれ刺繍や織物、染め物など独自の伝統技術を継承しているらしい。
Pankaj氏はこの11のコミュニティーの素晴らしい伝統技術を世界に発信している。
いろんな柄の刺繍作品などを見せてくれて、11のコミュニティーそれぞれの特徴を教えてくれた。
その違いと同時に、一つ一つがハンドメイドであることに驚き、あまり言葉が出なかった。
昼ごはんを食べると、いよいよETHNOTEKのTHREADの制作現場を見せてもらえることになった。
2.THREADの製作現場を訪問
Pankaj氏のオフィスからトゥクトゥクでインドの田舎道を走る。
街からはかなり離れた場所にBhujodi(ブジョディ)という村があった。
村には色鮮やかな刺繍の商品が並んだお店が数点あったがそれ以外は日用品が売られているお店がポツポツとあるだけの小さくゆったりとした村だった。
Pankaj氏がこちらと案内してくれた先は一軒の家だった。
門をくぐると、一人の男性が僕たちを待っていてくれたかのように優しい笑顔で迎え入れてくれた。
彼はShamji氏と言い、このコミュニティーのリーダーのような存在。
Shamji氏と自己紹介をし合っていると、その先に見たことのある柄、でも見たことのない大きさの塊を梱包している人たちがいた。
Shamji氏がそんな僕たちに気づくと「あれがこの前ようやく完成したもので、いまベトナムに送る準備をしているところだよ」と教えてくれた。
ここで作られた生地がベトナムでファスナーなどつけられてTHREADとして新しく生まれるのだろう。
その話を聞いただけで、自分が使わせてもらっているもののルーツを見たような気がして、ETHNOTEKへの愛着がまた一つ深まった。奥では、Shamji氏の家族がチャイを準備して待っていてくれた。
チャイを飲み終え、それでは行きますか!と家の裏にみんなで歩き出した。
「ガチャン、ガチャンッ!ガチャン、ガチャンッ!」
向こうに見える白い建物に近づくにつれて心地良いリズミカルな音が次第に大きくなってきた。
僕たちはいよいよだと、そこでまた少し緊張した!
「あーーー!」
妻の涼と2人でその見たことがある色の糸と糸が複雑なようで、でも規則的に絡み合い、生地になっている様子を見て思わず声をあげた。
「これ!これ!」と自分たちでも自分が興奮していることがわかった。
そこは機織り機が2台ずつ、向き合って計4台ある製作現場だった。
そのあとに訪れた離れにある台が5台、翌日に訪れた少し離れた場所の2台を合わせて僕たちは11台のETHNOTEKのTHREADを作るための機織り機を見せてもらうことになった。
正直、もっと機械化していると思っていた。
機織り機を操るのは全て男性。これはこのコミュニティーの特徴でもあった。
年齢はベテランの方もいれば、学校を卒業したばかりという18歳の青年もいた。
彼らは僕らを見て、ニコッとしたけれど作業をしているその手を止めることはなかった。
作業工程をShamji氏が詳しく僕たちに教えてくれた。
1日8時間、1人の職人が50mある糸の束を縦と横に伝統的なデザインで織り込んでいく。1日に作れるのは1.5mがやっとということだった。
第2話に続く