山で過ごす大切な時間
2017.11.17 上野朋子

山で過ごす大切な時間

山で過ごす大切な時間

トレイルランナー 上野朋子


レースの楽しみとともに、そのあとの楽しみもある。
自分にとって、それは新たな山を走り、新たなトレイルに出会うことでもある。今年はカナダ・バンフのエリアを起点に回った。1年を通してさまざまなアクティビティができ、アウトドアタウンとしても有名なエリアだ。

キャンモアは、バンフよりも東へ30キロほど離れた山岳地帯の街だ。カルガリーオリンピックの際には、クロスカントリースキーを中心に開催された地域で、今なおその色が濃く残っている。冬には多くのスキーヤーが訪れるリゾートエリアでもある。レースから1週間後のこの日、キャンモア地域の2400m前後の山3つを1日で制覇するというチャレンジの1日となった。地元の人たちからは“Triple crown challenge”と言われているそうだ。

早朝3時に滞在先を出発し、4時半に1つめのレディー・マクドナルド山のtrail headへと到着した。気温は6℃。真っ暗な中、準備をし、出発をする。「カナディアンロッキーの山の上から日の出をみたい」そんな思いをローカルの仲間に話した流れからこのチャレンジはスタートした。獣の匂いにちょっとビクビクしながら、全く音のない森の中を進むこと約2時間、さらに巨大な岩場を進み、森林限界を超えたエリアへ近づく。

出発間もなく

明るくなり赤く染まる山脈

この辺りまで来ると、空がうっすらと赤くなっている。川の反対に見える山々も、赤く染まっている。どうやら今日は雲が多い。山頂へと着いたとほぼ同時に日の出を見ることができた。そしてマウンテンゴートの群れに遭遇したのだ。子ども連れのようで、お互いに無言の挨拶を交わし、群れは山の斜面を駆け下りていった。なんともいえない空間だった。

マウンテンゴート

マウンテンゴート

日の出

気温が低く、強風はより一層体感温度を下げた。しかし、朝日を浴びながら、日の出とともに山の色が変化する感覚は感動的だった。簡単な補給を取り、下山を開始。麓からは、登山者と数人とすれ違った。

このチャレンジが、日本の山では一般的な縦走と異なるのは、このエリアでは多くの山が独立峰であり、荒々しい岩山の絶壁が標高をあげるほどそびえたつ。それゆえ、稜線沿いを歩くのではなく一度下山をし、次の山へと向かう。その地域特有の山の地形があり、姿がある。そんなことを知れるのも旅の魅力の一つだ。

2つ目の山は、イーストエンドオブランドル。序盤から急登が続き、且つ、岩と砂れきにまみれた登山道は不鮮明だ。一気に高度を上げているせいか、呼吸も乱れ始め、体調の変化も著しい。このころの時間帯になると、太陽はちょうど頭上に、気温はさらに上昇していく。特に日差しが強いので、体感的にはかなり暑く感じる。この砂れきと、目の前に見える岩壁。なかなかペースは上がらないものの、3時間をかけてようやく登頂。360度を見渡せる絶景は、山の美しさを改めて感じさせてくれた。山頂で出会ったハイカーは、カルガリー市街から頻繁にこのエリアの山に訪れているそうだ。日本から来たと声をかけると、彼らは富士山に登ったことがあるとのことで、日本やカナダの山の話をして盛り上がった。リンゴをかじりながら、そんな話をしている時間はまたうれしく楽しい。

山頂

山頂

いよいよ、3つ目の山、ハーリングピークへと向かう。ここは、他の2つの山に比べ観光客も多いが、地元の人の家族での登山も多いことがわかる。またその年齢層も幅広い。それだけ、アウトドアが人々にとって身近であり、日常的に山を楽しんでいる環境がここにはあるのだと実感する。程よい斜度で、足元も歩きやすく整備もされているため、子供を含めた多くの人が山に入ることも納得できる。ほどなくして、稜線へと出るとものすごい風に飛ばされそうになる。そう、これだけ天気は良いのに風向きによってはこの強風となるのがこのエリアの特徴だそうだ。この時期、カナダ、北米の至る所で山火事が発生していた。この日も含めてバンフ周辺にもsmokyな空気、毎日霞んだ空模様だった。高温、乾燥と様々な要因があるそうだが、改めて近年の自然環境の異変を感じた場面でもあった。



最後の山も無事に下山することができた。下山は麓の川へと下った。エメラルドグリーンに見える水面と青空、自然が作り出す色彩は圧巻だ。アイシングをして休憩する。そしてチャレンジのコンプリートを祝い乾杯!と言っている間も、水は冷たく数分も浸かっていられないほどだ。

アイシング

3つの山を楽しんだ1日。山はそれぞれの姿があり、高さだけでは計り知れない、違った表情を見せてくれた。そして、その時の自然の状況で装いも変わり、山を大切にしている人たちと出会うことでそのチャレンジは学ぶこと多き大切な時間となった。レースでのチャレンジも自分にとって大事にしている部分。それと同じくらい、その土地の山へ出かけ、その土地の歴史と文化に触れ、人々の生活を学ぶこともまたトレイルランニングの楽しみの一つだと思う。こんな山の過ごし方もまた好きで大切な時間。このチャレンジに声をかけてくれ、一緒にその時間を共有した仲間、そして日頃から支えてくださる方々に感謝です。

レポーター紹介
上野朋子
上野朋子

トレイルランナー
幼い頃から、家族の影響で登山・スキーなどのアウトドアに親しむ。中学・高校・大学はテニスに打ち込む日々。トレイルランニングには2009年頃に出会い、以降、レースにも参戦。同じころ、学生時代には一度離れたスキーを再開したこととも重なり、四季を通してその時々に合わせたフィールドで遊ぶ楽しみに惹かれる。現在も、冬場はスキーが中心。海外のレースへも挑戦し、初めて出会うトレイルを走る魅力、新しい土地での旅をしながら山を楽しむスタイルを追求している。
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